もち

冒頭文

餅を焼き乍ら夫はくくと笑った——何を笑って居らっしゃるの」台所で雑煮(ぞうに)の汁をつくっていた妻は訊ねた。 知って居るところへは旅行をするから年末年始の礼を欠くという葉書を出してあるので客は一人も来ない。女中も七草前に親許へ正月をしに帰してやった。で、静かなこの家は夫妻二人きり。温室育ちの蘭が緋毛氈の上で匂っている。三日間の雑煮も二人で手分してつくっている。 夫は餅の位置を焼けたのと焼け

文字遣い

新字新仮名

初出

「読売新聞」1933(昭和8)年1月10日

底本

  • 岡本かの子全集1
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1994(平成6)年1月24日