よいてがみ
好い手紙

冒頭文

場所、東京、山の手の一隅、造作いやしからねど古(ふ)りたる三間程の貸家建の茶の間、ささやかなれど掃き浄められて見好(みよ)げなる庭を前にす。晴れたる夏の朝、食後卓上の器具とりかたづけられぬ前、卓上には器具の真中に夏花の一輪挿し。室内の壁間ところどころに金縁、或は白木の手製らしき額縁にはめられたる油画。ある一二ヶ所にヴァイオリン一二挺掛けてある。男二十四五、武骨なれども垢抜けたる風貌、洗いたての白地

文字遣い

新字新仮名

初出

「女性」1925(大正14)年8月号

底本

  • 岡本かの子全集1
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1994(平成6)年1月24日