いきりょう |
| 生霊 |
冒頭文
一 松久三十郎は人も知る春陽会の驥足(きそく)である。 脚絆に草鞋(わらじ)がけという実誼(じつぎ)な装(なり)で一年の半分は山旅ばかりしているので、画壇では「股旅の三十郎」という綽名(あだな)をつけている。 飛騨の唐谷(からたに)の奥に、谷にのぞんだ大きな栃の木があって、満開のころになると幾千とも数えきれない淡紅色の花をつけ、それに朝日の光がさしかかると、この世のものとも思われないほど
文字遣い
新字新仮名
初出
「新青年」1941(昭和16)年8月
底本
- 久生十蘭ジュラネスク 珠玉傑作集
- 河出文庫、河出書房新社
- 2010(平成22)年6月20日