ゆきどけ
雪解

冒頭文

兼太郎(かねたろう)は点滴の音に目をさました。そして油じみた坊主枕(ぼうずまくら)から半白(はんぱく)の頭を擡(もた)げて不思議そうにちょっと耳を澄(すま)した。 枕元に一間(いっけん)の出窓がある。その雨戸の割目(われめ)から日の光が磨硝子(すりガラス)の障子に幾筋(いくすじ)も細く糸のようにさし込んでいる。兼太郎は雨だれの響(ひびき)は雨が降っているのではない。昨日(きのう)午後(ひるすぎ

文字遣い

新字新仮名

初出

「明星」1922(大正11)年3~4月

底本

  • 雨瀟瀟・雪解 他七篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1987(昭和62)年10月16日