ひかげのはな
ひかげの花

冒頭文

一 二人の借りている二階の硝子窓(ガラスまど)の外はこの家(うち)の物干場(ものほしば)になっている。その日もやがて正午(ひる)ちかくであろう。どこからともなく鰯(いわし)を焼く匂(におい)がして物干の上にはさっきから同じ二階の表(おもて)座敷を借りている女が寐衣(ねまき)の裾(すそ)をかかげて頻(しきり)に物を干している影が磨硝子(すりガラス)の面に動いている。 「ちょいと、今日は晦日(みそ

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1934(昭和9)年8月

底本

  • 雨瀟瀟・雪解 他七篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1987(昭和62)年10月16日