えのきものがたり
榎物語

冒頭文

市外荏原郡(えばらごおり)世田(せた)ヶ谷(や)町(まち)に満行寺(まんぎょうじ)という小さな寺がある。その寺に、今から三、四代前とやらの住職が寂滅(じゃくめつ)の際に、わしが死んでも五十年たった後(のち)でなくては、この文庫は開けてはならない、と遺言(ゆいごん)したとか言伝えられた堅固な姫路革(ひめじがわ)の篋(はこ)があった。 大正某年の某月が丁度その五十年になったので、その時の住持(じゅ

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1931(昭和6)年5月

底本

  • 雨瀟瀟・雪解 他七篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1987(昭和62)年10月16日