しんぺんちゅうしんぐら |
| 新編忠臣蔵 |
冒頭文
浅野内匠頭(たくみのかみ) 七ツちがい 春の生理をみなぎらした川筋の満潮(みちしお)が、石垣の蠣(かき)の一つ一つへ、ひたひたと接吻(くちづけ)に似た音をひそめている。鉄砲洲(てっぽうず)築地(つきじ)の浅野家(あさのけ)の上屋敷は、ぐるりと川に添っていた。ゆるい一風ごとに、塀の紅梅や柳をこえて、大川口の海の香は、銀襖(ぎんぶすま)や絵襖などの、間毎(まごと)間毎まで、いっぱいに忍びこんで来る。
文字遣い
新字新仮名
初出
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
底本
- 吉川英治全集・16 新編忠臣蔵 彩情記
- 講談社
- 1968(昭和43)年12月20日