じゅうねん
十年

冒頭文

十年前、十六歳の少年の僕は学校の裏山に寝ころがって空を流れる雲を見上げながら、「さて将来何になったものだろう。」などと考えたものです。大文豪、結構。大金持、それもいい。総理大臣、一寸(ちょっと)わるくないな。全くこの中のどれにでも直(す)ぐになれそうな気でいたんだから大したものです。所でこれらの予想の外(ほか)に、その頃の僕にはもう一つ、極めて楽しい心秘かなのぞみがありました。それは「仏蘭西(フラ

文字遣い

新字新仮名

初出

「學苑 第二號」1934(昭和9)年3月20日

底本

  • 日本近代随筆選 1出会いの時〔全3冊〕
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2016(平成28)年4月15日