はるふかく |
| 春深く |
冒頭文
嘗(かつ)て磯部というところへ行ったことがある。——上州のあの温泉の…… 二十九の春とおぼえている。——駒形にまだいた時分だ。 みっともないから事の次第はいわない、とにかく、その時分、いまにして思えば空(くう)な話。——らちくちもない夢のような話をたよりに、わたしは、白痴(こけ)みれんな毎日を送っていた。——寂しく、味気なく。——何をする張合もなく陰気そのもののような毎日を送っていた。
文字遣い
新字新仮名
初出
「都新聞」1924(大正13)年5月2、3、6、7日
底本
- 日本近代随筆選 1出会いの時〔全3冊〕
- 岩波文庫、岩波書店
- 2016(平成28)年4月15日