えどさんごくし
江戸三国志

冒頭文

伊太利珊瑚(イタリヤさんご) うす寒い秋風の町角(まちかど)に、なんの気もなく見る時ほど思わず目のそむけられるものは、女の呪詛(じゅそ)をたばねたような、あのかもじのつり看板です。 丈(たけ)の長いおどろしき黒髪が軒ばに手招きしている小間物店(こまものみせ)は、そこのうす暗い奥に、とろけそうなたいまい、鼈甲(べっこう)、金銀青貝の細工(さいく)の類(るい)が、お花畑ほど群落していようとも、男に

文字遣い

新字新仮名

初出

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

底本

  • 吉川英治全集 5 江戸三国志
  • 講談社
  • 1982(昭和57)年6月21日