たいうのぜんじつ
大雨の前日

冒頭文

此頃(このごろ)は実に不快な天候が続く。重苦しく蒸熱くいやに湿り気をおんだ、強い南風だ。そうして又(また)、俄(にわか)の出来事に無数の悪魔が駈出して来た様な、にくにくしい土色した雲が、空低く散らかり飛び駈けって、引切(ひっき)りなしに北の方へ走り行く。時々空が暗くなって雲が濃くなると一頻(ひとしき)りずつ必ず雨を降らせる。 こんな天気が今日で三日目だ。意地悪く息の長い風だ。人間は嘆息する、呼

文字遣い

新字新仮名

初出

「ホトヽギス 第十四卷第一號」1910(明治43)年10月1日

底本

  • 日本掌編小説秀作選 上 雪・月篇
  • 光文社文庫、光文社
  • 1987(昭和62)年12月20日