しらぎく
白菊

冒頭文

茅野停車場の十時五十分発上りに間に合うようにと、巌(いわお)の温泉を出たのは朝の七時であった。海抜約四千尺以上の山中はほとんど初冬の光景である。岩角に隠れた河岸(かし)の紅葉も残り少なく、千樫(ちがし)と予とふたりは霜深き岨路(そばみち)を急いだ。顧みると温泉の外湯の煙は濛々(もうもう)と軒を包んでたち騰(のぼ)ってる。暗黒な大巌石がいくつとなく聳立(しょうりつ)せるような、八ヶ岳の一隅から太陽が

文字遣い

新字新仮名

初出

「國民新聞」國民新聞社、1908(明治41)年11月3日

底本

  • 長野県文学全集 〔第Ⅱ期/随筆・紀行・日記編〕 第2巻 明治編〈Ⅱ〉
  • 郷土出版社
  • 1989(平成元)年11月18日