よめどろぼうたん
嫁泥棒譚

冒頭文

盗まれた祖母の実話 『ね、お祖母(ばあ)さん、うちぢや、Aにも親類があるのでせう?』 私は、祖母から彼方此方(あちこち)の親戚との関係を聞かされた時、ふと思ひ出してかう尋ねました。 『ないよ、何故ね?』 祖母は妙な顔をしてさう答へました。 『だつて私のちひさい時分に、よくAの叔母さんつて人が俥(くるま)に乗つて来た事を覚えてゐますもの』『あゝさうかい、あれはお前の本当の伯母さんさ、よく覚えてる

文字遣い

新字旧仮名

初出

「女の世界 第三巻第一二号」1917(大正6)年12月号

底本

  • 定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代
  • 學藝書林
  • 2000(平成12)年5月31日