しかのいんしょう
鹿の印象

冒頭文

大井川奥の田代から入って三伏(さんぷく)峠まで、十数日に亙(わた)る南アルプスの縦走を企てたことがある。大正三年の夏で、その二年前に友の一人が初めてこの山行を試み、雨の為に散々に悩まされた話を聞いていた。それで是非とも其(その)時の案内人夫を伴い度(た)く思ったのであるが、生憎(あいにく)一人も都合がつかなかったので、別人を雇う外はなかった。谷筋には相当明るい猟師であっても、山の上は全く知らないの

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝春秋」1935(昭和10)年8月

底本

  • 山の憶い出 下  
  • 平凡社ライブラリー、平凡社
  • 1999(平成11)年7月15日