しへいずる
紙幣鶴

冒頭文

ある晩カフェに行くと、一隅の卓に倚(よ)ったひとりの娘が、墺太利(オウストリー)の千円紙幣でしきりに鶴を折っている。ひとりの娘というても、僕は二度三度その娘と話したことがあった。僕の友と一しょに夕餐(ゆうさん)をしたこともあった。世の人々は、この娘の素性などをいろいろ穿鑿(せんさく)せぬ方が賢いとおもう。娘の前を通りしなに、僕はちょっと娘と会話をした。 「こんばんは。何している」「こんばんは。ど

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1925(大正14)年6月号

底本

  • 斎藤茂吉随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1986(昭和61)年10月16日