ししん ――のがみやえさまへ
私信 ――野上彌生様へ

冒頭文

八重子様 本当に暫(しばら)く手紙を書きませんでした。この間の御親切なお手紙にも私はまだ御返事を上げないでゐました。御病気はいかゞです。私は矢張り落ち付かない日を送つてゐます。もうすつかり新緑になりましたね、此頃は毎日染井(そめい)が思ひ出されます。本当に彼処(あすこ)の晩春から初夏にかけての殊に夕方のよさつたらありませんね、私たちもまた、彼処へかへつてゆきたくなりました。去年の今頃は毎日のや

文字遣い

新字旧仮名

初出

「青鞜 第五巻第六号」1915(大正4)年6月号

底本

  • 定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代
  • 學藝書林
  • 2000(平成12)年5月31日