1 わたしはシャリアピンさまに 永年仕へてゐる蚤 ともに韃靼の古都カザンに生れ ともに暮して当年六十四歳、 夏はシャリアピンのカラーの下の涼しいところに 冬は暖い頭髪の中に 平素は主として鳩尾(みづおち)のあたりに住んでゐる、 早耳、早足は小生の特長 御主人シャリアピンが御承知なくとも わたしはすべてを知つてゐる、 ソビヱットのこと、 旦那の若い頃からの友達ゴリキイ旦那