しへい
紙幣

冒頭文

紙幣よ、 貴様のためにこの私の詩人が 歌ふのを光栄と思へ、 だが貴様はいふだらう、 ——何を生意気な貧乏詩人め、  イノシシとは一体  十円札か百円札か知つてゐるか さういはれてみると一寸胴忘れした 然しそんなことが何の恥辱だらう、 紙幣の図柄をゆつくり 見て居る暇もない程に 貴様はいつも私の右から入つて左へ抜ける まるで駈足だ。 もし私がブルジョアならば、 お前にもつ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「先駆」1930(昭和5)年9月

底本

  • 新版・小熊秀雄全集第一巻
  • 創樹社
  • 1990(平成2)年11月15日