いさん |
| 遺産 |
冒頭文
おもいもかけない大地震は、ささやかな彼の借家と、堂々たる隣の家との境界を取払ってしまった。 いい家だけれど、あの塀があんまり高くて、陰気で、しめっぽくていけないと、引越して来た日から舌うちしていた忌々(いまいま)しい煉瓦塀(れんがべい)は、土台から崩れて、彼の借家の狭い庭に倒れ込み、その半分をふさいでしまった。先住の手植らしい縁日物の植木や、素人の手でつくられたに違いない瓢箪池(ひょうたんいけ
文字遣い
新字新仮名
初出
「三田文学」1930(昭和5)年1月号
底本
- 銀座復興 他三篇
- 岩波文庫、岩波書店
- 2012(平成24)年3月16日