ひたのさらやま
日田の皿山

冒頭文

一 筑紫(つくし)の平野を車は東にと走る。見渡す限り金色に光る菜の花の敷物である。あの黄色を好んだ画家ホッホが見たら狂喜したであろう。不思議にも美しい自然は絵画を通して私たちの眼に入る。田主丸(たぬしまる)や吉井を通れば、土塀(どべい)や土蔵の家々が町の古い物語りを話しかける。これも泥絵の画工たちが重々私たちに「覚えよ」といってくれた題目である。だが私の心が急ぐのは国を一つ越えた先の日田(ひた)

文字遣い

新字新仮名

初出

「工藝 第九号」1931(昭和6)年9月5日

底本

  • 柳宗悦 民藝紀行
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1986(昭和61)年10月16日