なえしろがわのくろもん
苗代川の黒物

冒頭文

一 何の因縁によるのか、ここでも上手(じょうて)の白物(しろもん)と下手(げて)の黒物(くろもん)とが対峙(たいじ)する。対峙するというより、むしろ白物のみが存在するという方がいいかもしれぬ。黒物の方は振り向く者がない。薩摩焼といえば、今は白陶器に定(き)まっている。店に並べて窯の名を誇るのも、遠く海外に出て名を博したのも錦襴手(きんらんで)のその白物である。近い鹿児島の街ですら黒物はほんのわず

文字遣い

新字新仮名

初出

「工藝 第四十一号」1934(昭和9)年5月14日

底本

  • 柳宗悦 民藝紀行
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1986(昭和61)年10月16日