おもいだすしょくにん
思い出す職人

冒頭文

亡き一職人のために 森数樹(もりかずき)兄と一緒であった。昭和九年九月一日、奥羽(おうう)地方民藝調査の折、秋田を訪うた。だがこの古い町に期待したほどの品物はなかった。黄八丈(きはちじょう)はあるが、本場のにはどうしても劣る。角館(かくのだて)でも作るが、もう生産が薄い。漆器は能代(のしろ)に名を奪われている。(もっともこの黄味を帯びた春慶(しゅんけい)は、色や塗(ぬり)の関係から上品であっても

文字遣い

新字新仮名

初出

「工藝 第百八号」1942(昭和17)年1月15日

底本

  • 柳宗悦 民藝紀行
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1986(昭和61)年10月16日