ほのおのなかにうたう
焔の中に歌う

冒頭文

一 温かい、香ばしい芙蓉(ふよう)の花弁(はなびら)が、そっと頬に触れた——。 そう感じて深井少年は眼を開きました。 多分今まで気を喪(うしな)なって居たのでしょう、四方(あたり)を見ると、全く見も知らぬ華麗な室(へや)の、南寄の窓の下に据えた、素晴らしい長椅子(いす)の上にそっと、寝かされて居るのでした。 「気がおつきになって? まあよかった」 紅芙蓉の花弁と思ったのは、額口へ近々と

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸倶楽部」1928(昭和3)年10月

底本

  • 野村胡堂探偵小説全集
  • 作品社
  • 2007(平成19)年4月15日