ろうじゅうい
老獣医

冒頭文

一 糟谷獣医(かすやじゅうい)は、去年の暮(く)れ押(お)しつまってから、この外手町(そとでまち)へ越(こ)してきた。入り口は黒板(くろいた)べいの一部を切(き)りあけ、形(かたち)ばかりという門がまえだ。引きちがいに立てた格子戸(こうしど)二枚(まい)は、新しいけれど、いかにも、できの安物(やすもの)らしく立てつけがはなはだ悪(わる)い。むかって右手(みぎて)の門柱(もんちゅう)に看板(かんば

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」反省社、1909(明治42)年3月1日

底本

  • 野菊の墓
  • ジュニア版日本文学名作選、偕成社
  • 1964(昭和39)年10月