ひめられたるそうわ
秘められたる挿話

冒頭文

竹藪(たけやぶ)がざわざわ鳴っていた。崖に挟まれた赤土路を弟妹(きょうだい)達が歩いている。跣足(はだし)になっているのも、靴を穿(は)いているのもいた。一同が広々とした畷(なわて)へ出て、村の入口に架(かか)っている小さな橋を渡ろうとすると、突然物陰から、飛白(かすり)のよれよれの衣物(きもの)を着た味噌歯(みそっぱ)の少年が飛出して来て、一番背の高い自分に喰付こうとした。遮二無二(しゃにむに)

文字遣い

新字新仮名

初出

「苦楽」プラトン社、1926(大正15)年10月

底本

  • 探偵小説の風景 トラフィック・コレクション(上)
  • 光文社文庫、光文社
  • 2009(平成21)年5月20日