やめる
廃める

冒頭文

一 「や、矢野君(やのくん)だな、君、きょう来たのか、あそうか僕の手紙とどいて。」 主人はなつかしげに無造作(むぞうさ)にこういって玄関(げんかん)の上(あ)がりはなに立った。近眼(きんがん)の、すこぶる度の強そうな眼鏡で格子(こうし)の外をのぞくように、君、はいらんかという。 矢野は細面手(ほそおもて)の色黒い顔に、こしゃこしゃした笑いようをしながら、くたびれたような安心したようなふうで、大

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説 第十四卷第一號」1909(明治42)年1月1日

底本

  • 野菊の墓
  • アイドル・ブックス、ポプラ社
  • 1971(昭和46)年4月5日