みずごもり
水籠

冒頭文

表口の柱へズウンズシリと力強く物のさわった音がする。 この出水をよい事にして近所の若者どもが、毎日いたずら半分に往来で筏(いかだ)を漕(こ)ぐ。人の迷惑を顧みない無遠慮なやつどもが、また筏を店の柱へ突き当てたのじゃなと、こう思いながら窓の格子内(こうしうち)に立った。もとより相手になる手合いではないが、少ししかりつけてやろうと考えたのである。 格子から予がのぞくとたんに、板塀(いたべい)に

文字遣い

新字新仮名

初出

「ホトヽギス 第十一卷第二號」1907(明治40)年11月1日

底本

  • 野菊の墓 他四篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1951(昭和26)年10月5日