おちぼ
落穂

冒頭文

水田(すいでん)のかぎりなく広い、耕地(こうち)の奥に、ちょぼちょぼと青い小さなひと村。二十五六戸の農家が、雑木(ぞうき)の森の中にほどよく安配(あんばい)されて、いかにもつつましげな静かな小村(こむら)である。 こう遠くからながめた、わが求名(ぐみょう)の村は、森のかっこうや家並(やなみ)のようすに多少変わったところもあるように思われるが、子供の時から深く深く刻まれた記憶(きおく)のだいたい

文字遣い

新字新仮名

初出

「文章世界 第八卷第六號」1913(大正2)年5月1日

底本

  • 野菊の墓
  • アイドル・ブックス、ポプラ社
  • 1971(昭和46)年4月5日