じらいやのはなし
自来也の話

冒頭文

自来也(じらいや)も芝居や草双紙でおなじみの深いものである。わたしも「喜劇自来也」をかいた。自来也は我来也(がらいや)で、その話は宋の沈俶(ちんしゅく)の「諧史(かいし)」に載せてある。 京城(けいじょう)に一人の兇賊が徘徊した。かれは人家で賊を働いて、その立去(たちさ)るときには必ず白粉(はくふん)を以て我来也の三字を門や壁に大きく書いてゆく。官でも厳重に捜索するが容易に捕われない。か

文字遣い

新字新仮名

初出

「演劇画報」1925(大正14)年5月

底本

  • 綺堂随筆 江戸の思い出
  • 河出文庫、河出書房新社
  • 2002(平成14)年10月20日