ばいしのつえ |
梅颸の杖 |
冒頭文
辰蔵(たつぞう)の成人ぶりもお目にかけたい。二歳になる又二郎にもばば様と初の対面を遂(と)げさせたい。妻の梨影(りえ)も久しくお待ち申しあげている。 孫の愛で釣るように、手紙を出すごとにこう上京をすすめていた老母が、やっと来る気になって、三月三日に広島を立ち、途中、菅茶山(かんちゃざん)の黄葉落陽村舎(そんしゃ)に立ちよって、十四日には便船で兵庫にあがるという叔父の春風からの通知をうけた
文字遣い
新字新仮名
初出
「文藝春秋 オール読物号」1930(昭和5)年7月号
底本
- 吉川英治全集・44 醤油仏(短編集一)
- 講談社
- 1970(昭和45)年4月20日