ひめたちばな
姫たちばな

冒頭文

はじめのほどは橘(たちばな)も何か嬉(うれ)しかった。なにごともないおとめの日とちがい、日ごとにふえるような一日という日が今までにくらべ自分のためにつくられていることを、そして生きた一日として迎えることができた。日というものがこんなに佳(よ)く橘に人事(ひとごと)でなく存在していることが、大きな広いところにつき抜けて出た感じであった。日の色に藍(あい)の粉がまじってゆく少し寒い早春の夕つ方には、き

文字遣い

新字新仮名

初出

「日本評論」1941(昭和16)年3月号

底本

  • 犀星王朝小品集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1984(昭和59)年3月16日