かれはのき |
| 枯葉の記 |
冒頭文
○ おのれにも飽きた姿や破芭蕉(やればせを) 香以山人の句である。江戸の富豪細木香以(さいきかうい)が老に至つて家を失ひ木更津にかくれすんだ時の句である。辞世の作だとも言伝へられてゐる。 或日わたくしは台処の流しで一人米をとぎながら、ふと半(なかば)あけてあつた窓の外を見た時、破垣の上に隣の庭の無花果(いちじく)が枯葉をつけた枝をさし伸してゐるのを見て、何といふきたならしい枯葉だらう。と思つた
文字遣い
新字旧仮名
初出
「不易 第八巻第一号」不易発行所、1944(昭和19)年1月1日
底本
- 荷風全集 第十八巻
- 岩波書店
- 1994(平成6)年7月27日