ぜにがたへいじとりものひかえ 142 ごんぱちのつみ
銭形平次捕物控 142 権八の罪

冒頭文

一 「八、居るか」 向柳原(むこうやなぎわら)の叔母さんの二階に、独り者の気楽な朝寝をしている八五郎は、往来から声を掛けられて、ガバと飛起きました。 障子を細目に開けて見ると、江戸中の桜の蕾(つぼみ)が一夜の中(うち)に膨(ふく)らんで、甍(いらか)の波の上に黄金色の陽炎(かげろう)が立ち舞うような美しい朝でした。 「あ、親分。お早う」 声を掛けたのは、まさに親分の銭形平次、寝乱れた八五郎の

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール讀物」文藝春秋社、1943(昭和18)年3月号

底本

  • 銭形平次捕物控(十五)茶碗割り
  • 嶋中文庫、嶋中書店
  • 2005(平成17)年9月20日