ぜにがたへいじとりものひかえ 084 おそめのなげき |
| 銭形平次捕物控 084 お染の歎き |
冒頭文
一 「八、あの巡礼を跟(つ)けてみな」 平次は顎(あご)をしゃくって見せました。が、浅草橋の御見附を越して、浜町の方へトボトボと辿(たど)って行く男巡礼、頽然(たいぜん)とした六十恰好の老爺に、何の不思議があろうとも、ガラッ八の八五郎には思えなかったのです。 「あの、拙(まず)い御詠歌をやって歩く——」「そうだよ」 八五郎はそれ以上の問答を重ねませんでした。主人の命令を受けた猟犬のような素早さで
文字遣い
新字新仮名
初出
「オール讀物」文藝春秋社、1939(昭和14)年1月号
底本
- 銭形平次捕物控(八)お珊文身調べ
- 嶋中文庫、嶋中書店
- 2004(平成16)年12月20日