ぜにがたへいじとりものひかえ 037 にんぎょうのゆうわく
銭形平次捕物控 037 人形の誘惑

冒頭文

一 新吉は眼の前が真っ闇になるような心持でした。二年越し言い交したお駒が、お為ごかしの切れ話を持出して、泣いて頼む新吉の未練さを嘲(あざけ)るように、プイと材木置場を離れて、宵暗の中に消え込んでしまったのです。 ——父親が聴いてくれないから、末遂げて添う見込みはない。出世前のお前さんに苦労をさせるより、今のうちに切れた方がいい——というのは、十八や十九の若い娘の分別というものでしょうか。

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール讀物 第五卷第二號」文藝春秋社、1935(昭和10)年2月1日

底本

  • 銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌
  • 嶋中文庫、嶋中書店
  • 2004(平成16)年5月20日