ぜにがたへいじとりものひかえ 072 かったいしょ
銭形平次捕物控 072 買った遺書

冒頭文

一 「親分、何をしていなさるんで?」 ガラッ八の八五郎は、庭口からヌッと長(なんが)い顎(あご)を出しました。 「もう蟻(あり)が出て来たぜ八、早いものだな」 江戸開府以来と言われた名御用聞、銭形平次ともあろう者が、早春の庭に踞(しゃが)んで、この勤勉な昆虫の活動を眺めていたのです。 生温かい陽は、平次の髷節(まげぶし)から肩を流れて、盛りを過ぎた梅と福寿草(ふくじゅそう)の鉢に淀んでおりま

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール讀物」文藝春秋社、1938(昭和13)年2月号

底本

  • 銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌
  • 嶋中文庫、嶋中書店
  • 2004(平成16)年5月20日