ちちぶのけいこくび
秩父の渓谷美

冒頭文

五月の秩父 いつも五月、一年中でのよき日である五月になると、私は秩父の山や谷を思い出すことが避け難い一の習慣のようになっている。恐らく秩父の自然に、私などのよく歩いた時と今とでは、人工的に加えられた変化の大なるものがあるであろう。私自身も其(その)中の幾つかを見て知っている。けれども其山や谷がもつ懐しさには少しも変りが無い。そして其懐しさは、全く秩父の山も谷も、人を惹き寄せて置いて、更に

文字遣い

新字新仮名

初出

「太陽」1926(大正15)年6月

底本

  • 山の憶い出 下
  • 平凡社ライブラリー、平凡社
  • 1999(平成11)年7月15日