たこのきのしたで
章魚木の下で

冒頭文

南洋群島の土人の間で仕事をしていた間は、内地の新聞も雑誌も一切目にしなかった。文学などというものも殆ど忘れていたらしい。その中に戦争になった。文学に就(つ)いて考えることは益々無くなって行った。数ヶ月してから東京へ出て来た。気候ばかりでなく、周囲の空気が一度に違ったので、大いに面喰った。本屋の店頭に堆高(うずたか)く積まれた書物共を見て私は実際仰天した。久しぶりで文学作品を読むと流石(さすが)に面

文字遣い

新字新仮名

初出

「新創作」1943(昭和18)年新年号

底本

  • 中島敦全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1993(平成5)年5月24日