せおいきれぬおもに
背負ひ切れぬ重荷

冒頭文

今から、六七年ばかり以前に、私の郷里で非常に善良なをとなしい一人の女教師が、自宅の前の溜池で自殺を遂げた事があります。 その死は、いろ〳〵な意味で、その周囲には深い注意をもつて観られたやうであります。しかし、私の聞いた処に依れば、彼女の自殺の原因らしいものはいくつも有りまするけれど、その何れもが極めて薄弱なもので、その為めに死ぬには、あまりに呆気(あっけ)なさすぎるものでありました。それに此の

文字遣い

新字旧仮名

初出

「婦人公論 第三年第四号」1918(大正7)年4月1日

底本

  • 定本 伊藤野枝全集 第三巻 評論・随筆・書簡2――『文明批評』以後
  • 學藝書林
  • 2000(平成12)年9月30日