ぜにがたへいじとりものひかえ 029 えどあほうきゅう
銭形平次捕物控 029 江戸阿呆宮

冒頭文

一 江戸開府以来の捕物の名人と言われた銭形平次も、この時ほど腹を立てたことはないと言っております。 滅多に人間を縛らぬ平次が、歯噛みをして口惜(くや)しがったのですから、よくよくの事だったに相違ありません。 「親分、また神隠しにやられましたぜ」 ガラッ八の八五郎が飛込んで来たのは、初夏の陽が庇(ひさし)から落ちて、街中に金粉を撒(ま)いたような、静かな夕暮でした。 「今度は誰だ」 平次は

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール讀物」文藝春秋社、1934(昭和9)年6月号

底本

  • 銭形平次捕物控(五)金の鯉
  • 嶋中文庫、嶋中書店
  • 2004(平成16)年9月20日