かじか
河鹿

冒頭文

C君は語る。 これは五六年前に箱根へ遊びに行ったときに、湯の宿の一室で同行のS君から聞かされた話で、しょせんは受売りであるから、そのつもりで聞いて下さい。 つい眼のさきに湧きあがる薄い山霧をながめながら、わたしはS君と午後の茶をすすっていた。石にむせんで流れ落ちて行く水の音もきょうは幾らかゆるやかで、心しずかに河鹿の声を聞くことの出来るのも嬉しかった。 「閑静だね。」と、わたしはいった。

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人公論」1921(大正10)年7月号

底本

  • 怪奇探偵小説傑作選1 岡本綺堂集 青蛙堂奇談
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2001(平成13)年2月7日第1刷