かんかんむしはうたう |
| かんかん虫は唄う |
冒頭文
木靴 「食えない者は、誰でもおれに尾(つ)いて来(き)な。晩には十銭銀貨(わんだら)二(ふた)ツと白銅の五銭玉一ツ、みんなのポケットに悪くねえ音をさせてやるぜ」 かんかん虫のトム公は、領土の人民を見廻るように、時々、自分の住んでいるイロハ長屋の飢餓(うえ)をさがし歩いた。 彼は、貧民街の同胞たちから、長屋のプリンスの如く人気があった。事こころざしと違って、二年や三年食いはぐれて見ても、外国のよ
文字遣い
新字新仮名
初出
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
底本
- かんかん虫は唄う
- 吉川英治歴史時代文庫、講談社
- 1990(平成2)年9月11日