よしとししゃせいちょう
芳年写生帖

冒頭文

絵師の誇り 霖雨(りんう)と硝煙のうちに、上野の森は暮急(くれいそ)ぐ風情でした。その日ばかりは時の鐘も鳴らず、昼頃から燃え始めた寛永寺の七堂伽藍(がらん)、大方は猛火に舐め尽された頃までも、落武者を狩る官兵の鬨の声が、遠くから、近くから、全山に木精(こだま)を返しました。 「今の奴、何処(どこ)へ逃げた」「味方を四五人騙し討ちに斬って居るぞ。逃してはならぬ奴だ」「まだ遠くへは行くまい」「見付

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール読物」1938(昭和13)年3月

底本

  • 野村胡堂伝奇幻想小説集成
  • 作品社
  • 2009(平成21)年6月30日