おたか
御鷹

冒頭文

一 眼がしぶい、冬日の障子越しに、鵙(もず)の声はもう午(ひる)近く思われる。 弁馬(べんま)は、寝床の上に、腹ばいになり、まだ一皮寝不足の膜(まく)を被(かぶ)っている頭脳(あたま)を、頬杖(ほおづえ)に乗せて、生欠伸(なまあくび)をした。 顔中のあばたが動く。 煙管(きせる)を取って、すぱっと一ぷく燻(くゆ)らしながら、ゆうべ打粉を与えて措いた枕元の腰の

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール讀物」文藝春秋、1936(昭和11)年2月

底本

  • 吉川英治全集・43 新・水滸傳(二)
  • 講談社
  • 1967(昭和42)年6月20日