にほんめいふでん おのでらじゅうないのつま
日本名婦伝 小野寺十内の妻

冒頭文

一 思い出もいまは古い、小紋(こもん)の小切れやら、更紗(さらさ)の襤褸(つづれ)や、赤い縮緬(ちりめん)の片袖など、貼板(はりいた)の面には、彼女の丹精が、細々(こまごま)と綴(つづ)られて、それは貼(は)るそばから、春の陽に乾きかけていた。 「この小紋も、はや二十年ほどになろう。良人(おっと)の十内(じゅうない)様が、江戸詰のおもどりに、長(なが)の留守居の褒美(ほうび)ぞと、

文字遣い

新字新仮名

初出

「主婦之友」主婦の友社、1942(昭和17)年1月号

底本

  • 剣の四君子・日本名婦伝
  • 吉川英治文庫、講談社
  • 1977(昭和52)年4月1日