はなかみろうにん
濞かみ浪人

冒頭文

()親の垢あか 几帳面(きちょうめん)な藩邸(はんてい)の中に、たった一人、ひどく目障(めざわ)りな男が、この頃、御用部屋にまごまごしている。 彼は、俗にいう、ずんぐりむッくりな体格で、年は廿六、七歳だった。若いくせにいつも襟元(えりもと)がうす汚い。袴(はかま)の紐(ひも)もよく締まって居ないと見えて、後(うしろ)下がりに摺(ず)ッこけている時が多い。 『オイ、数右衛門

文字遣い

新字新仮名

初出

「サンデー毎日 新春特別号」毎日新聞社、1938(昭和13)年1月

底本

  • 吉川英治全集・43 新・水滸傳(二)
  • 講談社
  • 1967(昭和42)年6月20日