ぎょもん
魚紋

冒頭文

()お部屋様へやさまくずれ 一 今夜も又、この顔合せでは、例によって、夜明かしとなること間違い無しである。 更(ふ)けても、火鉢に炭をつぐ世話もいらない程の陽気だし、桜花(はな)も今夜あたりでおしまいだろう、櫺子(れんじ)の外には、まだ戸を閉(た)てない頃から、春雨の音がしとしとと降りつづいていた。 パチ…… パチリ 榧(かや)の柾目(まさめ)の盤(ばん)

文字遣い

新字新仮名

初出

「冨士 臨時増刊号」1936(昭和11)年4月

底本

  • 吉川英治全集・43 新・水滸傳(二)
  • 講談社
  • 1967(昭和42)年6月20日