しんだちどり
死んだ千鳥

冒頭文

()藪椿やぶつばき 裏藪(うらやぶ)の中に分け入って佇(たたず)むと、まだ、チチッとしか啼けない鶯(うぐいす)の子が、自分の袂(たもと)の中からでも飛んだように、すぐ側から逃げて行く。 (おや、白い小猫?) と、見れば、それは七日(なのか)も前に降った春の雪が、思いがけなく、双(ふた)つの掌(てのひら)に乗るほど、日蔭に残っているのだった。 『——町にも、町の人達にも、

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1937(昭和12)年3月

底本

  • 吉川英治全集・43 新・水滸傳(二)
  • 講談社
  • 1967(昭和42)年6月20日