にんげんさんすいずまき
人間山水図巻

冒頭文

たれかがいま人間性のうちの「盗」という一部分を研究対象としてみたら、近頃ほどその資料に豊富な世間はないだろう。暗黒期といわれた過去の応仁、永正の年代でも、よも今日ほどであったかどうか。だがこういう国家状態のときのこうした現象は、人間の住むところ洋の東西を問わないようだし、またこんな混濁(こんだく)の底から実は必死な次代の良心が萠芽(ほうが)しつつあることも、史に徴(ちょう)せば期待されないことでも

文字遣い

新字新仮名

初出

「東京 創刊号」1947(昭和22)年4月

底本

  • 吉川英治全集・43 新・水滸傳(二)
  • 講談社
  • 1967(昭和42)年6月20日