けんのよんくんし 03 はやしざきじんすけ
剣の四君子 03 林崎甚助

冒頭文

一 母のすがたを見ると、甚助(じんすけ)の眼はひとりでに熱くなった。 世の中でいちばん不倖(ふしあわ)せな人が、母の姿であるように見られた。 「どうしたら母は楽しむだろうか」 物心のつき初(そ)めた頃から、甚助はそんな考えを幼心(おさなごころ)にも持った。 ふと、何かの弾(はず)みに、その淋しい母が、笑うかのような歯を唇(くち)にこぼすと、 「母上が

文字遣い

新字新仮名

初出

「講談倶楽部 一月号」大日本雄弁会講談社、1940(昭和15)年1月

底本

  • 剣の四君子・日本名婦伝
  • 吉川英治文庫、講談社
  • 1977(昭和52)年4月1日